4.ショックの定義・・・血圧とショックの関係は?
5.循環血液量減少性ショックの典型的な症状とその機序は?
6.血液分泌異常性ショック(アナフィラキシーショック、敗血症性ショック)とは?
今回は後半の上記3つについての説明になります



まず、ショックの定義ですが、簡単にいうと全身の細胞レベルでの酸素供給不足の状態です。
特に重要臓器である脳と心臓への酸素供給が不足した状態で、それが血の巡り、つまり循環に起因したものをショックと呼びます。

ショックは心停止の一歩手前の非常に危険な状況で、生命危機状態です。

循環不良ですから、血圧低下も「ショック」症状のひとつではありますが、血圧が高い低いというのはショック病態の本質ではない点に注意してください。

血圧が正常値であっても、「ショック」である場合があります。

ショックは、なんらかの原因で全身の細胞が酸素不足となり、枯渇している状態です。
血圧は関係なく、この状態が生じていればショックといいます。


人間の体はうまくできていて、体内環境を一定に保とうとする自然の力があります。
ホメオスタシス、恒常性ですね。

この働きで、細胞の酸素不足を解消しようとする人体の自然の力が働きます。
細胞への酸素供給が足りない状態をどうやって解消するか?
酸素をたくさん体内に取り入れて、細胞へ送る機能を高めるような努力を、体は自然と始めます。

わかりやすい例だと
呼吸が速くなって、心拍数が上がるのも、この酸素不足を補う自然の働きです。

さらには、重要臓器、つまり心臓と脳への酸素供給を優先的に行うシステムに切り替わる(?)ために、生命維持には関係しない体の部位、たとえば末梢の手足への血流を制限して、体の中枢に血液を集めるようになります。
これが、いわゆる末梢が締まる、という状態です。

手足の血管を細くすることで、そこにめぐる血液量を制限して、脳と心臓の方にまわします。
結果、手足の血流は悪くなりますから、手先などが冷たくなります。
血管が細くキュッとしまると、弾力的に固くなり「延び」が減りますから、拡張期でも血管があまり拡がらなくなる。
するとどうなるかというと、「拡張期」の血圧が高く保たれます。

拡張期血圧は、血管の弾力によって作られる圧だからです。
拡張期圧が上がると、収縮期血圧との差が小さくなります。
これが、ショックの時に撓骨動脈の拍動が弱く感じられる理由です。

さらに血圧や心拍出量を高めようと交感神経が優位に働きますので、その副反応として、冷汗がでます。
交感神経優位の状態というのは、日常的なことで言えば、緊張や興奮、焦った時の状態と思ってください。
学会発表の時とか、心臓がバクバクいうのわかりますよね?
さらに手が汗ばんだり、脇汗がひどかったり、そんな状態です。
つまり、これらをまとめると

・手を触れるとじっとり冷たい
・冷汗
・顔面蒼白
・頻脈
・末梢の脈が弱い(拡張期圧が上がるため脈圧が低下)
・呼吸が浅く速い


というような、ショックの典型的な症状となるわけです。

このような細胞の酸素不足を補うための生体の対処反応の結果、酸素不足が補われる、つまり「代償」されることで、人間は大事な臓器である脳と心臓を守ろうとします。

その結果、ショック状態ではあるけど、血圧は下がらず、(脳への酸素供給も維持されるため)意識状態も比較的保たれるという状態がしばらく続きます。
この状態を、ショックの重症度区分の上で、「代償性ショック」といいます。

しかし、その代償機構もそう長くは続きません。
出血が続いたり、長時間に及ぶとカバーしきれず、代償機能が破たんします。
すると、最後の砦だった脳と心臓への血流ならびに酸素供給を維持できず、生命危機状態へと陥っていきます。
そのわかりやすいファクターは、意識状態です。

脳が酸素不足になるとボーっとしてくる。
意識レベルの低下が出てきます。
この頃になると、血圧の代償も崩れて、いよいよ血圧の低下も見られてきます。
これが重症度分類としての「低血圧性ショック」への移行です。

低血圧性ショックに移行すると、子どもの場合は数分間で心停止になってもおかしくないと言われています。
かなりの緊急事態です。

このように、血圧が低下していないからショックではないという考え方は適切ではありませんし、私たちが目指すのは血圧が下がる前の代償性ショックの初期の状態を認識して介入することです。
それがPEARSの目標です。

いま説明したのは、ショックの中でもっとも頻度が高い「循環血液量減少性ショック」をイメージしながら書いた作用機序です。

循環血液量減少性ショックというのは、体の血液量(広くは体内の水分)が減ってしまって、血流による酸素運搬能力が落ちることで起きる細胞の酸素不足です。

わかりやすくは大出血した場合です。
さらに子どもに多い状態としては、下痢や嘔吐、摂食障害などでも循環血液量減少性ショックが起こります。

こんなショックに関する基本事項を、まずはしっかり押さえておいてください。

「血液分布異常性ショック」

PEARSでは一般的なショックとは病態生理と徴候が若干異なる「血液分布異常性ショック」も扱います。
具体的には、敗血症性ショックアナフィラキシー・ショックがこれに該当します。

ショックの定義からして、細胞への酸素供給不均衡という点では同じですが、循環血液量減少性ショックが体内の水分の絶対量が不足しているのに対して、血液分布異常性ショックでは、水分は体内にあるものの、血管が拡張することで血圧が下がり、血管壁から血漿(水成分)が漏出することで、循環血液量が減り、酸素運搬能力が下がる状態となるという点で、両者は機序がやや異なります。

アナフィラキシーも敗血症も、ざっくりとくくれば「炎症」を伴います。
炎症反応により、血管が拡張することで、血圧が下がります。
ゴムホースで水を撒くときのことを想像してみてください。
先をつまんで内腔を狭くすると水は遠くまで飛びます。径が太くなると、圧力は下がって水は遠くには飛びません。
また血管が広がることで、血管壁の「網の目」が広がり、水分の漏出が増えるというイメージを持ってみてください。

つまり、血液中の水分が間質に出てしまうことで、血管内の血液量(つまり循環血液量)は減ります。
これらの結果、循環機能が低下し、細胞への酸素供給が下がるわけです。

その症状は、基本的には循環血液量減少性ショックと同じに考えていいのですが、気をつけなくてはいけないのが、「血管が広がる」病態であるということ。

本来はショックになれば代償機能(恒常性:ホメオスタシス)によって、細く締まるはずの末梢血管が広がっている可能性があります。
そのため、循環血液量減少性ショックでは典型症状だった「手が冷たい」という症状が見られないかもしれないのです。
逆に手がぽかぽかと温かいということがあります。
血管が広がるということは部分的な血流量が増えるために温かく感じられるわけです。

このように血液分布異常性ショックの場合は、典型的なショック症状とは合致しない症状が見られることがあるという点で注意が必要です。
また血管が拡張することで、血管の"張り"がなくなり、特に拡張期血圧が下がるという特徴があります。

そのため、収縮期と拡張期の血圧の差(脈圧)が上がるため、末梢の脈拍を触知した時に、拍動がはっきりしっかりと弾むように強く感じる場合があります。

このふつう以上に脈がはっきり触れる状態を、PEARSコースDVDの中では、反跳脈(bounding Pulse)という言葉で表現されています。


血液分布異常性ショックの場合は、特に初期の場合は拡張期圧が下がり、脈圧が上がることがあるという点を頭の片隅にいれておいてください。

血液分布異常性ショックについては、ネット検索等で構いませんので、ある程度知識を頭のなかに入れておいてください。
特に循環血液量減少性ショックとの違いについて、なぜ? という点を考えておくことは重要です。






【BLS横浜/BLS札幌】