1.小児に多い心停止の原因(心原性or呼吸原性?)と、心停止に至るまでの機序
2.医療従事者における小児の胸骨圧迫の適応条件
3.「補助呼吸」とはなにか? どんな時にどんな目的で行うものか?
今回は前半の上記3つの設問についてのヒントと解説になります

※かなり端折った大枠の説明となりますので、まずはイメージで理解していただけたらと思います。

心臓突然死(突発的な心室細動:Vf)による心停止が多いとされる成人に対して、小児・乳児の心停止は「呼吸原性」が多いと言われています。

つまり呼吸のトラブルから、呼吸停止となり、心停止に至るという経過です。

なぜ、子どもに呼吸のトラブルが多いかというと、成長発達の過程が関係しています。

人体の発生、つまり胎児からの成長の過程を考えたときに、心臓はごく初期のうちに形成され、母胎内でもりっぱに機能しています。
それに対して呼吸器系は相対的に未熟で、母体から生まれ出た後の第一声から始まり、そこからようやく機能しはじめます。

もう一度言います。
子どもは循環器系に比べて呼吸器系が未熟です。

ゆえに体の成長発達が完成する時期、つまり思春期までは、原因のわからない子どもの心停止に際しては呼吸器系のトラブルに起因するというのが蘇生科学の考え方です。

呼吸のトラブルによる心停止、つまりそれは「低酸素」による心停止です。


その心停止に至るまでの機序を考えると


呼吸窮迫  呼吸不全  呼吸停止  低酸素血症 → 徐脈 → 低酸素血症による無脈性電気活動(PEA)  心静止


という経過が予想されます。

※無脈性電気活動(PEA)の概念は、ネット検索等でご確認ください。

特にこの後半ですが、酸素供給が絶たれると、全身の細胞が酸素不足となり、特に酸素消費量の多い心臓は次第に元気がなくなっていくというイメージで考えてみてください。

低酸素で元気がなくなった心臓は、拍動がゆっくりになっていき、最後は動かなくなり、停まってしまいます。

心電図波形でいうと、洞調律のレートが徐々に延びていって(洞性徐脈)、最後は波形がフラット(つまり心静止)になります。

こうした機序をたどる低酸素による心停止の場合、救命の要はなにかといえば、ずばり「酸素化」です。

酸素不足ゆえに心臓が弱って動きが遅くなり、血圧を保てなくなっているわけですから、もし、早期に発見できて、まだ脈が触れる程度の血圧が保たれているなら、まずは適切な酸素化(酸素投与や換気)を試みます。

これが「補助呼吸」の考え方です。

胸骨圧迫を伴わずに人工呼吸だけを行うことを、AHA-BLSの日本語テキストでは補助呼吸と呼んでいます。
呼吸なし、脈拍あり、の場合の緊急介入が、補助呼吸です。

これは呼吸原性心停止を、心臓が停まる一歩手前の状態で発見できたと考えてみてください。

循環がまだ保たれていれば、人工呼吸で酸素を肺にまで供給すれば、あとは循環機能で心臓の冠動脈にまで酸素が到達し、心筋細胞が酸素化され、徐脈が解消されて、血圧上昇を伴えば、意識を取り戻すことも期待できます。

しかし、脈が触れる程度の血圧があっても、心臓が小さい小児は、1回拍出量ではなく心拍数で血流量を稼いでいるため、心拍数が遅く、顔面蒼白やチアノーゼといった循環不良の兆候があると、たいへん危険です。

酸素投与や補助呼吸によって酸素化を試みても循環不良の兆候や徐脈(基準は60回/分未満)が解消されないのであれば、補助循環という意味で胸骨圧迫も併せて行うことは、BLSプロバイダーコースで学んだとおりです。

そうやって、心筋細胞の適切な酸素化が行われれば心臓が元気さを取り戻すかもしれない、と考えるわけです。

これが小児の心肺蘇生では、人工呼吸を伴うCPRが重要であるという理由です。

さて、ここまで理解できたら、次のような状況を考えてみてください。


呼吸原性心停止の患児や傷病者にAEDを装着したらAEDはどんな指示を出すでしょうか?
(この時の心電図波形が何かを考えてみてください)

・また呼吸原性心停止が疑われる患児や傷病者に、胸骨圧迫のみのCPRをした場合の効果についても、考えてみてください。

この辺りは、AHAの小児の救命の連鎖を見ながら、考えていただくと、なるほど、と思うことがあるかもしれません。

※小児は「心停止の予防」から始まる
 → 小児の心停止は突然ではないから。呼吸停止で介入すべき
※通報よりCPRが優先
 → CPRによる酸素化で反応して蘇生する可能性があるから
※小児の救命の連鎖にAEDが入っていない
 → 低酸素血症によるPEA→心静止。除細動は適応外のことが多い



【BLS横浜/BLS札幌】