救命指導員の自己研鑽の必要性について

今では一般的になったCAB手順。実はこれ、2010年からとご存知ですか?

AHA(アメリカ心臓協会)が2008年の3月にハンズオンリーCPRを発表し、今までの歴史が塗り替えられた訳です。

当初はILCORや他の団体から同意を得ることができず、明らかなNOを突き付けられたようです。

そりゃ、過去何十年もABC手順で行われていたので、かなり斬新。

ただ、その時代にCAB手順の有効性、根拠を示した訳ですからAHAってすごいですよね。

さて、突然死の中で一番多いのが心臓突然死。

日本でも年間8万人近くの方が亡くなっていると言われています。

その原因は突然の心リズムの異常で、多くの場合は心室細動(VF)です。

VF によって心臓が痙攣するため、心臓としての機能は破綻。

重要な臓器に血液を送れません。いわゆる心停止です。

心停止の場合は 1 秒を争いますので、一刻も早く何かしらの処置をしたい訳です。

しかし、A(気道確保)は良いにしても、見ず知らずの人にB(人工呼吸)ができますか?

そりゃ、抵抗があるので、次のC(胸骨圧迫)まではなかなかたどり着けませんよね。

ただ、それだけではなく、心室細動(VF)の場合、倒れる直前までは正常に呼吸しているため、

心停止後の最初の数分間は肺や血液中に十分な酸素があると言われています。

その酸素を質の高い胸骨圧迫を行う事で、心臓や脳に送り届ける。

これが救命率を上げる訳です。

そこで、ABC手順が一般的だった2005年のBLS for Healthcare ProvidersのDVDを確認した所、胸骨圧迫までの時間が非常に長い事に気がつきます。

今とはだいぶ手順や方法が違うのですが

体動・反応がない

⇒119コール

⇒気道を確保し呼吸を確認

⇒呼吸がない場合は人工呼吸を2回

⇒反応がなければ脈拍チェック(10秒以内)

⇒脈が無ければ⇒胸骨圧迫

現在のシンプルさを知っているだけに、見ていてオロオロしてしまいます。

テキストに関しても、2005年のテキストと比較すると、現在はかなりシンプルになっています。

変更点は色々あるとはいえ、歴史を垣間見る事ができ、省かれた大切な内容も多くあるので、大変勉強になります。

シンプルになる事でCPRの着手率が上がったのは良い事ですが、シンプルが故の弊害も見受けられます。

医療従事者や救命指導員であっても、多くの事を誤解して捉えている人が多くいます。

これは患者さんや受講者さんにとったら、大変悲劇的な事だと思いませんか?

救命指導員であれば、説明する対象が違えば大きな誤解を与え、教育事故を引き起こす可能性だってあります。

突然の心停止は8割近くが自宅で起きているということを考えれば、大切な人に施す救命処置が、バイスタンダー向けと同じ説明で良い訳がありません。

テキストに書かれている内容だけ伝えれば良いのであれば、テキストがあれば十分です。

テキストがシンプルだからこそ、指導員はそこを補う知識と技術が必要になります。

小手先だけのテクニックでは、応用は利きません。

非常事態に遭遇した時に、いかにその人が適切な対応が取れるのか?

それらを見越して、指導員がきちんとした根拠を学び、対象にあったCPR指導ができるよう、日々の自己研鑽が必要だと痛感しています。